「むかわ短歌会報」 124号

「むかわ短歌会報」 124号
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八月詠草                 八月二十七日
歌の会やめると言いて日常の物足りなさにまた歌作る
夕飯の炊けるにおいに包まれてやっぱり私はやまとなでしこ
                         瑞穂
教会の空気ふるわせひびきたるパイプオルガンのトッカータ
聞く
朝顔の晴れ姿見んと早起きし窓をあけるもシーツ干される
                         譲一
廃線となりたる駅の街灯にクワガタ探す父むすこ孫
アヴェマリア聞きて立ち寄るうどん屋に「ぶっかけ」食べる
夫につられて
「ミソヒトモジ」に「味噌」を連想すると言う短歌の好きな
若い調理師
                         博子 
ごきげんのわろき男の子と虹を見るホース動かす真夏日の昼
                         福恵
ゆうぞらに無音飛行機うかびおり泣いて涼しくなりしか人は
                       吉川宏志 


「むかわ短歌会報」 89号

「むかわ短歌会報」 89号
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三月詠草
     三月八日    晴れ・暖かい
朝陽さしいいことありそうな予感して夫の仏前に線香あげる
「おかあさんが・・・」つぶやく青年いとおしく我が家の息子とだぶらせて聞く 
 瑞穂
臍の緒は一度だけ命を救へるとひとの言ひけむ雪の記憶に
白鳥の神さびて行く啼き交はし負へないものをふりしぼりつつ 
 福恵
わが家と同じ会話が聞こえくる夜中一時の入院病棟
秋からの不調の続きまた一錠薬がふえてためいき一つ     
 京子
ランニングシャツにて雪かく人のありイーハトーブと呼ばれる里に
ひなげしの中に微笑む君の遺影 帰りの道は吹雪きがいたい
ひびにつけよと妹くれしクリームの君のエッセイしみじみとして 
博子
コルドバの街描かんと腰おろす買い物ツアーの喧騒のがれ
侵略の恐怖に駆られ人々は崖上に住めりロンダの街に   (スペイン)
知らざりきいまわのきわにありてなお「さわらび」のこと夫に托せしと
      譲一
ずんずんと雪のかさ減る弥生月そっと顔出す福寿草ひとつ
マイナスの予報が減りて春近し我が家はいまだ雪原の中   
 千恵子


「むかわ短歌会報」 88号

「むかわ短歌会報」 88号
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2月詠草 2月20日 外山宅
 雪の坂道を下りて外山家へ。おいしいコーヒーと紅茶、娘さん手作りのケーキはさらにおいしかった。喫茶店のできるのが楽しみ。猫のボンボンは呼ばれるたびに返事をする。
少しずつ延びし日あしに鉢の花つぼみやわらぎ心もなごむ
敷地内を小川流るる君が家鹿の足あと点々とあり   春泉
海沿いの道帰りきてわが町はいたる所に白き小山ぞ歩くこと得意としている吾(わ)を笑えデコボコ凍て道そろりそーろり賑々しく華やかに踊るフラメンコを間近に見つつも睡魔に勝てず      博子
またしても発酵力に魅せるれて塩麹つかいパスタ一皿うわさ話もおちに笑いがあるといいマイナス十度の予報はつづく     京子
目の前の座席にいきなり美女の手がつやっぽく動く恋人なるか巨大なる牛の看板なかったらラ・マンチャの道単調すぎる糸杉はワタシ、キライとガイド言う墓場に多き樹なればこそと       譲一
今どこを母の心はさまようか 生きたくもあり死にたくもあるとひからびたみかんのごときわがこころとりもどしたきみずみずしさを     千恵子
玉へむけ歩を置く騎士の駒の音まだ苦しめと背筋へ刺さるマフラーはラッキーカラー街中の時計を止めて走って行こう     福恵
バレンタイン親しい人へメールして幸せになる午後のひととき朝日射す出窓に花の鉢置いて遠くの娘の安否を思う     瑞穂


「鵡川短歌会報」 87号

「鵡川短歌会報」 87号
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新年詠草  1月20日 
晴れ 御馳走がいっぱい。幸せいっぱい。
むりをせずいくつかの趣味続けたし悩みの晴れて新年迎える   春泉
独白を受けとめ時には眠らせる窓辺のソファー夫のゆりかご
聖誕祭の灯りのかげ「ノリ(われ)、メ(に)、タンゲレ(ふれるな)」ほほえみて神はゆれいる 
      福恵
子守歌うたい聞かせし子にあれどカラオケのコツわれに教える
酒飲みの祖父と夫(おっと)は同類で菓子を買い来る酒のついでに 
 博子
鋸で挽く木の断面の年輪によわいかさねて塗装ためらう
軒下の雪解け水を飲み終えて野良猫「哲」はひといき入れる   譲一
仕事終えうす氷ふみ街へ出て南天千両花屋はなやぐ
美容院を出でてぶうらり街に来てピンクのシャツを思わず試着  
京子
水中に心と身体をときはなち内なる声に耳かたむける
はてどこか?去年作りしかんぴょうを家中さがし猫にたずねる 
 千恵子


「鵡川短歌会報」 86号

「鵡川短歌会報」 86号
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12月詠草 12月13日
光射す窓辺の鉢に水をやるデイサービスの素敵な男性
駐車場に冬陽を受けてとまりいる白い車でドライブしたい        瑞穂
目的地へ地図のない道歩き来しあの山坂をふと思い出す
花ばさみ持つがわたしの薬だった決してもどらぬあの日あの時      春泉
若きらに〈幼児体型〉増えるとう個性失くした社会の悪夢
被災地にミニチュア神社贈られて穢れ払われ手を合わせいる       譲一
博物館を守る役目の警察官マニキュアの手がチケット渡す
洗濯物が万国旗のように揺れているごみに出される日本のハンガー 
博子 (キューバ二首)       
枯れてなお色をとどめし紫陽花にすてきに老いるあなたを見るよ
認知症誰(た)がなりたくてなるものか心うごかぬ哀しい人に       千恵子
人肌の湯気がいつでもあがつてる台所からはなんでも見える
深秋の浴衣の帯の片結び秘湯二風谷肩から冷える   
福恵


「鵡川短歌会報」 85号

「鵡川短歌会報」 85号
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十一月詠草     11月15日     寒い日でした
最後にて無理して出かけし同期会六人の級友(とも)の黙祷に始まる
暗闇の部屋に匂いたつカサブランカあすは生けよう水色の花器に   
      春泉
うまれたるまちの残像消え失せるガレキの山もかたづけられて
子に請われ応援メールわれも出すフクシマの母起ち上がるとき 
      譲一
パッキンひとつ取り替えるだけで水漏れが直りそうだよ日本ならば
水たまりにビー玉遊びしている子そんなのどかさ失くした日本 
      博子
特養の妻を見舞うと行く人の後ろ姿にさびしさひとつ
宝石のように輝く星三つ日だまりの里に冬が近づく
七回忌おえて十三回忌言う子らよ私の命はありや  
      静枝
愛された確かなる日々しんかいへまっかうくじら尾をうねり居る
庭に来し熊を話す目きらきらし昭和がきのうのおほあにの声  
      福恵
いく筋も天使のはしご下りきて天にさそうか晩秋の日に
秋の日のやわき日ざしに背をおされ還暦坂をゆるゆる歩く  
     千恵子


「鵡川短歌会報」 84号

「鵡川短歌会報」 84号
84号
10月詠草     10月17日
長い髪耳元で揺れるイヤリング遠く離れた後を想うか
敬老の日えびフライ揚げ母招く百まで生きてと老い母に言う   
瑞穂
約束の旅行キャンセル親友(とも)に詫ぶくやしいけれど病魔に勝てぬ
食欲なく思考力までおとろえて健康軸がぐらぐら揺れる     
春泉
症状があるのに医師は病気でないと窓の向こうは灰色の雲
子供らのワッショイワッショイ交差して小さなおひねりいくつも作る 京子
新しき屋根より落つる雨のたばその音聞きつつ針仕事する
灯さずに相撲見ている友いるにA電の宿よるも煌々    
博子
混線の前頭葉を嗤いたりホワイトボードの曜日のシール
手をとりて支えてやりたい袖までを講演終えし澤地久枝の    
譲一
シャボン玉ふあんふああんあれがうそこれが本当秋へ飛ばせり
卵かけご飯を好むあなたへの茶碗を選ぶやや大きめの    
福恵
還暦を過ぎて私は秋さなかやがての冬をいかに過ごさむ 
青空に灰色雲の同居して朝朝迷う洗濯機まえ    
千恵子


「鵡川短歌会報」 83号

「鵡川短歌会報」 83号
83号
9月詠草           9月27日
これからを問はれたる日よ爪を切り髪切りさあと風を行かせし
午前零時マスクパックに降りてくる招待状「仮面舞踏会へ」  
福恵
会うこともかなわず過ぎて突然に逝きたるを聞く頑強なりしが
輪ゴムくいこむ腕のようなりくるみの木に藤づるまきて暑き夏逝く 
博子
亡き母へ届けと歌う娘もありて被災の街にのど自慢開く
被災地に北国の春の歌ながれひとふしごとに涙あふれる 
(拡大版のど自慢大会 久慈市) 
譲一
目のために趣味のリフォームやめよとは羽根をもがれた小鳥のようで
健康に自信過剰のわたくしが目の手術とよ受けとめ得るか 
春泉
親亀のようになったわたしなのに子に若いと言われ夏の陽を浴ぶ
我のこと若いよと言い子は発てり何を基準かヒルガオの咲く 
京子
朝もやに包まれし大地今まさに豊穣の時迎えんとする  
豊かなる稔り育むこの大地 地下のマグマよ静かに眠れ  
千恵子
いただきしトウキビ旨しかじるたび口に心に幸せ広がる
医師に呼ばれまた病名が増えてくる重たき足がさらに重たい
不安な身は蜘蛛の糸にもとらえられされど生き延ぶ秋風吹きて 
静枝


「鵡川短歌会報」 82号

「鵡川短歌会報」 82号
82号
8月詠草
京子
またしても抗酸化力にこだわりてカボチャかトマトどちらを買うか
何がしか望み託せるか校庭の去年と同じ桜みあげる 
譲一
蜘蛛らにも効き手はあるか網はるに右まわりあり左もありて
通信のスピードあがるもわが脳は反応にぶくまちがい多し  
博子
食事どき神に感謝と言うおさな白衣観音それも神だと
三歳がギターのようにかき鳴らす深く眠りいし義父のマンドリン
けさ見たるスタイルの良き昆虫はカンタンなるとふと目の夫言う  
福恵
絆創膏一箱貼ってをさな子が夫をフランケンシュタインにする
子は未来夫は昨日を見つめるかライターにポッと火のついた夏 
千恵子
無理やりに北のわが家に移されし卆寿の母の笑顔になごむ
秋空に菜の花畑と見まがうは日ごと色付く豊穣の田よ


「鵡川短歌会報」 81号

「鵡川短歌会報」 81号
81号
七月詠草  七月二十六日
瑞穂
初盆に盛りだくさんの果物を供えてくれしおしどり夫婦
初盆にわたし帰国よお母さんお寺参りに一緒に行こうね
昼も夜も一人静かな居間にいてこさえてみようか歌会の歌を  
京子
風邪をひいたただそれだけで風船がしぼんでしまった夕べのわたし
昼餉どき「おいしいですか」「おいしい」と二歳児のような母と介護師 
譲一
おもいきりマジックのふた取り朱を入れる佐伯裕子の添削の時
交尾するガガンボの羽根きらめきて真夏の庭に葉の少しゆれ
家庭的な雰囲気だねと妻の言う庭に物干し台初めて置きて    
博子
静かなる湖畔に目覚めたあの朝に地震怪獣むくむくしてたか
わいわいと湖畔の店にわかさいも買いたる午後の地殻変動
早朝のバックミラーに初咲きの朝顔写りわくわくと出る   
福恵
離乳食と思はばたのし夫の予後に日に六回を卓に並べる
物言ひの激しい分だけストレスをためたあなたに気付かぬわたし  
千恵子
壊れゆく母の心をとり戻す術はなくとも笑顔をせめて
生命とは利己的なもの寿命とはおかげを持ちてと僧侶が言えり