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会報「鵡川短歌」第162号
会報「鵡川短歌」第162号
七月詠草 七月十八日
・風に揺れ青紫の藤の花丹精こめた姉の一念
・見頃なる藤の花見にさそわれてもてなす姉はお花見弁当
・時にはゆれる藤の花房二尺ほど写真を撮ると我らもポーズ
京子
・豆畑を覗けば毛虫一目散 にげるわにげる 畝を横切り
・ようやくに小豆育ちて畝立つに山背吹きあれ花散らしゆく
・野地茱萸を摘みきて塩漬けのおにぎりにかの日思える勇払原野
和子
・つる巻かず憎らしいのはエンドウと朝どり一番の初もの味わう
・エンドウのはつものとれたて味わうも豆の手のぼらぬがやはり憎らし
・つる巻きの一番乗りに賞状の札をつけやるハウスのきゅうりに
譲一
・十三歳の心にささった棘ひとつ嫁をいびった隣のおばさん
・自転車にまたがり寿司を食べている少年の足元に子猫くつろぐ
・若き日に心ふるわせたチャイコフスキー ストラディバリウスこよい
再び 博子
・もの忘れすは認知症と脅かす画面にウフフ、ムカシカラデス
・雨の日は裁縫箱をかたはらにお友達呼ぶテレビの中の
福恵
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「むかわ短歌会報」135号
「むかわ短歌会報」135号
八月詠草 八月十九日
若き日の行きつけの店で髪を切る美容師の話に心なごめり
君の歌町報に載らずさびしいよ彼の言葉にペン走らせり
瑞穂
夜を徹し原稿を書く明け方に朝顔の花咲きつつあらむ
ふたり子を失いし後の我が誕生この命こそと母の祈りよ
記念の時計あきらめるわけにはいかなくて隠れん坊の鬼しば
し続ける 博子
手紙読む火野正平の番組に列車止まるも駅舎(えき)すでに
なく
まめ畑伸び放題の草むしる手を休ませてツツドリの鳴く
譲一
仏前の百合が香れるその部屋で洗濯物をたたみておりぬ
京子
「きれい」と言ひ空気を誉めるをさなごと盆の朝の散歩はか
どる 福恵
死に際を思ひてありし一日のたとへば天體のごとき量感もて
り 浜田 到
永田和宏「現代秀歌」より
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「むかわ短歌会報」132号
「むかわ短歌会報」132号
四月詠草 四月十五日
しばれ込む前にと植えし三つ葉ニラ春早々のハウスににおう
嫁たちにもらいし服を身にまといおどけてみせる七十路(
ななそじ)のわれが
保育士になるという孫の出発日我が庭に来てうぐいすの鳴く
突然に雪降りて朝もやかかりとけ行く庭にパンジーふるえて
(再考) 和子
目覚むれば庭のイチイは雪まみれ4・12一歩後退
急に英語でpass meを言う幼子は食卓のテッシュ取ってほし
くて
音楽室にベートーベンがいたものか長髪の絵を指しおさな言
う 博子
思いっきり髪型変えてさばさばと午後の作業に加わりており
ひだまりの庭木のもとに福寿草元気を出せといわんばかりに
京子
勇払の野にこふこふとハクチョウのV字もありて塒をめざす
繋がらず「ライン」にてこずりわれは今スマホ片手のチョウ
チンアンコウ 譲一
はぐれたる一羽の鳥の鳴く声のこふこふこふこふ夕日に消え
る
ランドセル新しき児のこぼしゐる朝の光のうしろを歩く
福恵
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「むかわ短歌会報」 131号
「むかわ短歌会報」131号
三月詠草 三月十一日
厳冬のオヨロ川に鮭産卵す温泉のぬくもり知りて来るらし
夕茜に溶け込み行くかまよい鳥群れにあえたか日の落ちる前
雪解けの水を含みてふきのとうバス待つ道に二、三、七つ
和子
退院後一年迎え吾に子が花束かかえさらに香りも
息子は手品のごとく手際よくお吸い物パスタ一皿作る 京子
ワッペンの意匠きまらず手のとまり頭の中をタンチョウはば
たく
たちこめる湯気ちらしつつ米ひろげ味噌麹つくる三年ぶりに
味噌づくり熱気におされ我もまた大豆洗いに力の入る 譲一
火の気なく湯も出ぬ調理場に味噌こねる作業三日目足が冷た
い
「腰伸ばせ」とSちゃんの腰さすりやる手植えレタスに曲り
し腰を
日が照ればまた大根を刻みおり切干大根あまーくなーれ
博子
エッセーを書く参考にと聞きながら一人の人に恋をしている
瑞穂
さへづりに朝日を添へし弁当と車で向う夫の病室 福恵
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「むかわ短歌会報」 130号
「むかわ短歌会報」130号
二月詠草 二月二十六日
我が好きな又吉像をそこそこにラーメンのあとホットワイン
も
フィリピンから来た女性らの雪まつりenjoyed,niceにサンク
ス・ア・ロット
モーグルの若者あげる雪煙ふりかかりくる雪の祭典
博子
三月三日百一歳の母の誕生日ケーキを添えて病院で祝う
長期出張の息子の帰り待ちわびて重たい雪にうんざりとする
瑞穂
骨密度現状維持と医師言うも返す言葉にとまどいいたり
積雪は隣ご近所一斉に雪掻きをする花園二丁目
また一つ病名増えてやじろ兵衛バランス取らんと前後にゆれ
る
京子
寒々とする夜空の星見る時の我が心とや 犬の遠ぼえ
如月の雪かきおれば頭上行く声かけあいて鶴のつがいが
坦々と過ぎ行く冬の夕べこそタンスを空けたり上の段から
和子
寒の日の雪掻きをえしふしぶしの湯舟に桃の香りをはなつ
福恵
歯が痛いのではないよと又吉のあごに手をやる雪像のあり
大雪像の上だけみえる屋台前西日の中に母子像のあり
雪まつり杯の底に酒ありてこれでも試飲か ふところ寒し
指先に唾をつけつつスコアめくりシャルル・デュトワの指揮
棒うなる
譲一
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「むかわ短歌会報」 129号
「むかわ短歌会報」129号
一月詠草 一月二十二日
冬日さすベランダに芋の箱ならべ早植えせんと浴光始む
日の昇る間際の空気いと寒し木に止まるすずめみんな丸まる
三日おきに庭先に来て座り込む子狐一ぴき餌乞うその目
身を半分逆さまにして掘り来たる大根煮込むことことことと
寒風に大根五本切り干して炊きあわせせん孫ら来る日に
和子
寒風にさらされながら列車待つ鉄道マニアの人らとわたし
正月も患者でいっぱい怪我人は松葉杖にて行ったり来たり
京子
白ペンキ振りまわしたように点点とカラスの糞が狭き歩道に
生ごみ捨て、室より大根出さなくちゃ大雪来るとテレビがさ
わぐ
冷気・湿気の条件そろい樹氷のあさ真白に輝くもみじの古木
博子
燃え尽きて机に向い手まわしのオルゴール聞く「フリー・ア
ズ・ザ・ウインド」
見ているか近づくたびにざわざわとカラスの群れは樹上を移
る
譲一
「ハイチーズ」「イチタスイチハ」と並ばされ忘れた一つを
不意に気がつく
方便とふ嘘を言いたる我に さて 孫は小さく言葉を発す
福恵
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「むかわ短歌会報」 128号
「むかわ短歌会報」 128号
十二月詠草 十二月十八日
収穫の間近な畑に白鳥が群れなし来てはブロッコリー食う
木々の間にほのあかく夕日しずみゆき今日三升の豆えらび
終ゆ
子を背負い死なんと歩きし五キロ道福祉バスにて風呂へと
向かう
和子
忘年会今年は無しと思いしがシャンソンを聞きてボジョレ
ヌーボを
ファド歌うシャンソン歌手にひきこまれワインの席もしず
まりかえる
譲一
ひざまずきこうべを垂れて金を乞う若者みたり三人(みた
り)カレルの橋に
フランシスコ・ザビエル像の足元に金乞う若者子の年に似
る
行けど行けど発電風車大手まわし黄金に輝くドナウの夜景
博子
くらきよのひとすじの光みし朝の夫の写し絵弥陀に重なる
福恵
爆笑の続くテレビや本当に面白きこと世にいくつある
先見えぬゆえに面白き人生と達観はあれ時には焦る
木下一真
「角川短歌」2016年1月
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「むかわ短歌会報」 127号
「むかわ短歌会報」 127号
十一月詠草 11月17日
いくらなどネタがそろって寿司祭りデイサービスの年間行
事
私のつたない短歌町報に載りひとりの男(おのこ)歌を始
めん
「すばらしい」僕も一首詠んでみたい意欲を燃やす初心の
男(おのこ)
瑞穂
霜枯れの草のぬくもり受けいしか季節はずれの真っ赤ない
ちご
御仏飯を供える手はかじかみて灯すローソクわずかに温し
藁蓆(わらむしろ)に包んだ鋸を背負い行き薪を切りたり
十五のわたし
仏前に供えんと植えし菊の苗秋は三坪を五色に染むる
荷を背負い山坂こえて花も咲く土に生きしものみな短歌
(うた)となる
和子
きっぱりと冬は来ずしてクロフネの白き花ひとつほろりと
咲ける
ひみつ守るヤンは橋より捨てられしモルダウ川に白鳥やす
む
カレル橋・聖ヤン・ ネポムツキー
譲一
夫とわれの名前のサイズ違う表札許せなかった義父作りし
を
表札のない家増えて街中にのっぺらぼうがはびこる気配
博子
我が家には松前という表札もかけられている命名は直二
(歌人後藤直二)
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「むかわ短歌会報」 126号
「むかわ短歌会報」 126号
十月詠草 10月16日
遠い日
五歳にて祖母の家へと雪道を妹生まれたと告げに行かさる
姉ゆえと叱られしこと腑に落ちず歩いた道に今野菊咲く
新聞紙まるめてランプみがけよと父の声する夕日をみれば
和子
外灯の下に見つけし昆虫をガムシだと言う小さきファーブル
筋肉はついておらねど柔らなる体だと知る体操教室
その夫を突然おそいし傷害事故ロンドンの姪に我も狼狽える
博子
次にくる発作の前にファン・ゴッホ左向きたる自画像描きし
力つきしぼりだすごと茎の先に五センチほどのキュウリをつ
ける
譲一
君の住む街をテレビに見たる日のはずむ心をしづめかねゐつ
歳月を枝に抱きてもの言はぬ庭の一樹をより所にする
福恵
うえ木鉢寄せ植え上手なしげみさん生け花とちがう美に感動
す
風に舞う落ち葉を庭に追いかける運動がわりの朝のひと時
春泉
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「むかわ短歌会報」 125号
「むかわ短歌会報」 125号
9月詠草
十勝岳の紅葉の中に入りゆく間合ひをせばむあなたの声に
福恵
キッチンに窓いっぱいの西日受けバジルとパセリきそいて
伸びる
ありがとうを一日何度もくり返し目薬までも子にさしてもら
う
京子
おかげさま歌会だけがよりどころ上達の見込みなくてもよろ
しくね
春泉
蛇いちご桑の実なども食べまくり野山駆けしを子は孫に言う
わが町のトラフ鉄橋ふるわせてジーゼルカー来ない待てど暮
らせど
はるかなるチリ海岸を出でし波やってくるぞと朝焼けが言う
博子
すじ雲と語り合いたるコスモスの時を越えいし初恋のころ
医学書に書かれしとおりファン・ゴッホ玉ねぎ盛りて絵筆を
にぎるー「玉ねぎのある静物」
譲一
十字路を曲がりゆくまで見送りぬダム工事場へ今朝も行く子
を
背伸びして枝剪定し育てたる今年のぶどう房の重たし
和子
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